ループ
僕は起き上がった。
外はまだ暗く、スリープしていたパソコンを起こし、時計を見ると午前二時だった。
何か嫌な夢でも見ていたのか、喉が渇いていた。夢の内容は覚えていない。
何か飲もうと思った。
家人を起こさないよう、音を立てずに注意しながら階段を下りる。一階にはダイニングとリビングがひとつになった部屋がある。引き戸を慎重に開ける。暗い。
冷蔵庫を開ける。コーラが入っていたので、グラスに注いだ。茶色の液体が泡を立てている。
グラスに口をつけた。グラスの中にはコーラである液体が入っているが、炭酸のしびれる感じも、味もしない。
何か嫌な感じがする。体調でも悪いのか、と思う。いつもは朝まで目覚めるなど無いのに。
部屋の中を見回す。まだ暗闇に目が慣れていなかったので、様子は良くわからなかったけど、いつもと違う感じがする。
朝までまだ時間がある。体調が悪くても今はまだ良くわからない。様子を見てからでも良いかと思った。寝なおすために部屋へ戻る。
グラスをシンクにおき、水を溜めておく。
足音を立てないように階段を上がる。
ドアを開けようと手を伸ばしたときだった。
誰か後をついてきている。
音がするとか、気配がするというものではなく、確信だった。
誰か後をついてくる。振り向いて姿を確認することは、何か悪いことが起こるきっかけになることはわかっていたから、振り向けなかった。
「あ、あ、あ、あの……。」
僕は部屋に駆け込んだ。
「ま、ま、まってくださささいいよ。よ。」
悪いことに、僕の部屋のドアにはカギが付いていない。ノブを押さえ、開かないよう固定する。
「わ、わ、わ、わるいやつじゃないですよ。よ。あけて、てて、くださいよ。よ。」
ドアががたがたと音を立てる。ドアを開けようとしているみたいだ。開かないようにドアを押さえる。
「な、な、な、ぜななんですか。な、な、な、なにもしないですすよ。わかりますか、か、わるいことなんててししませせせんよ」
興奮しているようだ。激しくドアががたがた音を立てる。
「そこで話しなさい」
「な、な、なゼですカ。カ。カ。わるいやつじゃナいんでですすよ。ヨ。よ。」
がたがたがたがた。
「いや、おまえは悪いやつだ。こんな夜中に何をしている」
「ソ、ソ、ソ、ソれはゴかいですよ。よ。よ。」
がたがたがたがた。がたがたがたがた。
「おまえは、何だ」
「わ、わ、わ、わたしはホ、ホ、ホしから来たのです。ホしはトおいいですよ。よ。」
がたがたがたがた。がたがたがたがた。がたがたがたがた。
「ドアから手を放せ」
「ハ、ハ、ハなしたら、ハ、ハ、ハなしてくれますか。か。カ。」
僕はどうするか迷った。放したら話して?放したら放して?か。
「もう、話してる」
がた。
「ズ、ズ、ズるいでですよ。よ。ソんなななの。」